FC2ブログ

スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

未完成なものばかり

 大きな声で笑う女だった。誰かが冗談を言えば、その都度声を張り上げて、げらげらと笑う女だった。初めて出会った日のことは覚えていないが、その笑い声だけが印象に残り、二度目に会った日にも、「声の大きい女だ」という認識だけはあった。
 何度も名前を訊かれたが、たぶん居酒屋で知り合ったであろう得体のしれない女には教える気にもなれず、いつものように曖昧にごまかし、暫くしてから、さも特別に教えようかという格好で「コウヘイ」と名乗った。どんな字を書くの? と訊かれれば、それはまた次回、と誤魔化したが、実の本名は全くかぶらない名前だった。
 女は名前を「ゆみこ」と言った。オウム返しで「どんな漢字?」と訊くと、「由緒の由に、卑弥呼の弥だよ」と丁寧に返してきた。そして「コウヘイ、こんど教えてね」と、子供のように舌足らずに言った。由弥子はずっと大きな目でまじまじとこちらを見るので、嘘をついている自覚でもあれば終始居心地が悪そうだが、俺にはただの変な女だった。

 由弥子と親しくなったのは、三度目に出会った時だった。
 俺を指さして、由弥子は「あ」と声を上げた。そこは俺のいきつけの居酒屋ではなく、たまたま気まぐれに入った安居酒屋で、テーブル席に座ろうとすると、先客の汚したつまみやらゴミやらに追いやられて、「きったねえなぁ、おい、向こう行くか」と順平が言い、無言で畳の席に移動した時に彼女と目が合った。お通しとビールと携帯だけが、テーブルの上に置いてあった。
 そこでも由弥子は畳に突っ伏して、げらげらと笑った。偶然の再会と、俺の変なパーカーがウケたらしい。「おいでおいで」と隣の席の座布団を手の平で何度も叩き、嬉しそうに招かれた。
 畳の席の小さなテーブルには、俺と順平と由弥子が並んだ。順平は「おい、この女なんだよ。知り合いかよ」と耳打ちしてきたが、面白がった俺は「まあまあ、人数は多い方がいいじゃんか。酒の席なんだし」と返した。由弥子はじっとこちらを見ていて、俺が何か言う前に「カンパリソーダ」と大きな声で叫んだので、傍にいた店員さんを呼び寄せて、「カンパリソーダと、生ふたつ」と注文した。俺らは酒で乾杯して、暫く適当に喋って笑った。
 当時バイトでつまらないミスをして、加えて新卒の面接に落ちまくっていた俺は、誰でもいいから、酒を飲める相手が欲しかった。春から就職が決まっていて、バイト先では副店長、懐にも心にも余裕のある順平だけが俺の飲み相手で、それはそれで悪くはないが、そいつは表面だけ愛想がよくて、普段はつまらないやつだったから、新しい相手を探していたところだ。
 由弥子は、俺の言うくだらない冗談に、その日もテーブルに突っ伏して、げらげらとよく笑った。その笑い声を聞いて、「そうそう、前に会った時も一人でうるさい奴だったな」と、彼女のことを少しづつ思い出していた。ただ、やっぱり一度目の記憶はまるでない。
 途中から何も喋らず、テレビばかりを見ていた順平は、「もう俺、帰るぞ」と席を立ったが、俺は気にせず、「おう、またな」と言って由弥子と喋り続けた。
 その晩、酔った勢いで由弥子を家に連れて帰った。家でも冗談を言い続ける俺に、由弥子はケラケラと無邪気に笑い、その後はふうと一息ついて、俺の顔をまじまじと見てきた。
「コウヘイ、どんな字書くの?」と、由弥子は訊いた。「次会ったら、教えてやるって、言ったよね。会ったよ」大きな目玉がそう言った。
 その唐突な投げかけに、俺は適当に「平らに耕すって書くんだよ」と答えると、由弥子は「平らに耕す、で、耕平か」と、自らに浸透させるように呟いた。もしくは、ただ単純に繰り返していた。由弥子の真剣な横顔はどこか間抜けで、まるで何も考えていない女のように見えた。こいつ、普段から何も考えてないんだろうな、と思った。それは、なにを言っても最後は笑って完結してしまうという彼女の性質から導き出された単純な解答だった。明るい女は嫌いじゃない。俺は由弥子を二度抱いた。
 朝は俺が先に目覚め、由弥子はいびきをかいて寝ていた。昨晩飲みながら床に入ったので、髪が酒で濡れて、寝癖がひどかった。化粧も落とさず、素っ裸のまま、パンツも穿いていない。俺は時計を見て慌てて支度し、由弥子の頭に向かって「俺、先に出るわ」と告げたが、由弥子は何も答えない。
 夕方、バイトが終わって家に帰ると、由弥子はまだ寝ていた。起こすと、「うん、もう飲めないよう」と寝ぼけて笑い、じゃあもう寝てろ、と言うとまた鼻で笑って寝た。
 由弥子は呑気な女だった。



 一番最近書いた小説。たまにはアップしてみる。

 幾つもを同時進行で書いていて、誰が誰だか、何がどうなってんだか分からなくなってきた。アップすればこれを「特別」と呼べる気がして、小心者な私はそれにかけてみたり。
 あーもう、三月末に間に合わんっ

 と言える場所があってよかった。読んでくれてありがとう。
スポンサーサイト
[PR]

[PR]

コメントの投稿

非公開コメント

こんにちは


こんにちは。
奈緒子さんの文章って何か引き込まれます。
『どの部分が?』って訊かれると困るのですが…僕には文才がないので、具体的にどの部分が凄いのか説明できないんですけど…スミマセンただ文章読むだけでその情景がハッキリと浮かんでくるんですよ。


さて、前回のコメントにあった『のりさん』の状況、僕も一緒です。
今、一緒にいて癒される存在の子がいます。年齢がだいぶ離れているので、恋愛対象になり得ないと思っていたのに、何だか不思議な気持ちです。

もちろん、お客さんとお店の女の子の関係を超えられるなどとは思っていないんですが、彼女の無邪気な笑顔を見ると『守ってあげたい』って気持ちが湧いてきて…

こんな男の勝手な勘違いのノロケ話みたいなものを書き込むべきかどうか迷いましたが、のりさんの書き込みみて勇気がわいて…(笑)

男のノロケ話は長いので、自分でブログに書いてみますから、書き上がったら奈緒子さんの意見聞けたら嬉しいです。

甚だ迷惑なお話でしょうから、無理はしないでください。

独りでモヤモヤしてるのが嫌で、誰かに聞いて欲しいだけなんだと思います。

一方的でごめんなさいm(_ _)m

Re: こんにちは

おやぢちゃんさん、またブログ教えて下さい。
楽しみにしていますね♪
いつもコメント、ありがとうございます(*^-^*)
プロフィール

奈緒子

Author:奈緒子
暇なときにきます

Twitter関連
ando_naokoをフォローしましょう
最新コメント
最新記事
カテゴリ
月別アーカイブ
メール♡
良ければどうぞよろしく(*´ω`*)

名前:
メール:
件名:
本文:

検索フォーム
QRコード
QR
カレンダー
05 | 2018/06 | 07
- - - - - 1 2
3 4 5 6 7 8 9
10 11 12 13 14 15 16
17 18 19 20 21 22 23
24 25 26 27 28 29 30
ユーザータグ

RSSリンクの表示
アクセスランキング
[ジャンルランキング]
アダルト
46901位
アクセスランキングを見る>>

[サブジャンルランキング]
その他
3338位
アクセスランキングを見る>>
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。