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変温動物

 みゆきさん、あたし、彼の子供を作りたいんです。
 以前からそう言っていた彼女は、決して彼の子供を産みたい、とは言わなかった。

「……うん、続けて」
「はい、だから、えと、あのお」
 耳元に彼女の息遣いを感じて、今もなお同じ悩みに身をやつしているのだと感じた。午前七時。彼女に起こされた朝のこと。
 小さな声でゆっくりと、彼女は懸命に話を始めた。その声の裏では女性アナウンサーの声もする。なぜテレビをつけて、いま、連絡してきたのだろうと不思議に思う。別にいつでもできる話じゃないのだろうか。見たいテレビを見終わってから電話すればいいのにと思う。
 遠くの耳触りの良い音と、近くの荒い息遣い。躍起になる彼女の声を不適切に感じてしまい、集中できない。

「つまり、そのままして、って、カナちゃんから言うの?」
「そうなんです。私がそうせがむんです。ゴムなんて着けないでって」
「……うーん」
「みゆきさんは反対ですか? でも、あたし、不安なんです、愛されたいから……」
「カナちゃん、いまは体に異変はない? ピルも飲んでないでしょ?」
「はい、だって何回しても、子供ができないから、大丈夫なんです」
「大丈夫って……本当に赤ちゃんができたらどうするの?」
「それは、後から考えるつもりです」
「後からって、子供ができてから、ってこと?」
「はい」
「彼、仕事はしてるよね?」
「しています。まだアルバイトだけれど、いつか正社員になるって言ってくれています」
「子供ができてから、正社員になるってこと?」
「もしも子供ができたら、すぐに正社員になって、バリバリ稼いで、お前を楽させてやるって」
「カナちゃんの彼がそう言ったの?」
「はい。お前を幸せにするよって。お前のことが好きだからって。だから、あたし、信じたいんです、彼を。お前しかいないよって言ってくれる彼だけを、あたしも見ていたい」
 その先を想像しないの? と、ありきたりなことを言いかけて口を噤んだ。
 カナちゃんの愛する彼も、彼女の未来については語るものの、決して子供のことに関しては語らない。いや、カナちゃんの誇張や願望の含まれているであろう状況説明を、私までそのままうのみにはできない。彼が本当にそう言ったのかもしれないし、言っていないのかもしれない。
 プップーと窓の外から車のクラクション音が聞こえる。朝の交通渋滞。私も昨日までは捕まっていた。腕を伸ばしてカーテンをめくると、灰色の雲から大粒の牡丹雪が舞っていた。あ、雪だ。今年初めての雪だ。隣に眠る彼を起こして、見せてあげたい。厚手の布団をもぎとって、今すぐ彼と雪を見たい。窓際に眠る彼の寝顔は、なんてのんきで暖かそうなのだろう。いいなぁ。布団から出てしまった私はこんなに寒い思いをしているというのに。やっぱりシングルじゃなくて、ダブルのベッドと布団を買うべきだったなぁ。

「でね、みゆきさん」
 なんの相槌も打たない私に、カナちゃんは大きな声を出した。
「あ、うん。ごめん」
「あたし、彼の子供を作りたいんです」
 カナちゃんは、去年と同じ言葉を今年も言った。そういえば、去年彼女と話をしていた時も、その声の裏には常に雑音が聞こえていた。もしかして、彼が後ろにいるのだろうか? いや、まさか。
「うーん、私は賛成しかねるけど……ごめん、頭かたいかな。せめて彼が就職して……」
「あたし、彼の子供を作りたいんです。彼の分身を宿したい。彼の一部を受け入れたい」
「……でもね、カナちゃん」
「もしものことは、もしもの時に考えます」
 彼女はきっぱりと拒絶した。それこそが揺るがない結論なのだと、私たちに知らしめるように。彼女は黙った。私も黙った。彼女の後ろに控える人は、今の言葉を聞いただろうか。
 外は雪が降り続いている。
「うん、……そっか。そこまで意志が固いなら、もう何も言わない。頑張って、カナちゃん。もしも赤ちゃんができたら、また報告してよ。カナちゃんのその愛があれば、大丈夫じゃない?」
「……でも、でもね、みゆきさん」
「うん」
 窓の外は雪だ。ベッドから床へと片足をおろして、伸ばした指の先でストーブをつけようとしたけれど、灯油が切れていてつかなかった。なんとか小さな火がつかないものかと執拗に押したけれど、そこには火花すら見られない。灯油をとりに行きたいけれど、片手でやれる作業ではない。彼女の電話を切ることもできない。ベッドの端で、余った毛布にくるまった。
「あたし、怖いんです。みゆきさん」
 カナちゃんが、受話器の向こうで固唾をのむ気配がした。
「怖い? 彼のことが?」
 彼の全部を受け入れたい、と先ほど言っていたのに? あ、違う。彼女はこう言ったんだった。彼の一部を受け入れたい――それは、どういうこと?
「みゆきさん、あたし、子供が嫌いなんです。彼も子供が嫌いなんです。だから、私たちに子供は必要ないんです。でも、私たちの愛を確かめるには……今まで彼を愛した女性たちより、私が一番彼を愛しているから、子供を作らないといけない。彼にとってのもっとも特別な存在だと証明するためには、彼の分身を作らなければならない。ねぇ、どう思いますか、みゆきさん」
「…………」
 あれ? 話が一周してしまった気がする。くしゃみをかみ殺して、私は答えた。
「……あー、もしもの時に考えれば。それは」
「……みゆきさん」
「なに?」
「私も、そう思います。良かった、みゆきさんが同じ意見でいてくれて」
 外は雪。部屋の中は寒い。受話器の向こうには変温動物がいた。体温調節機能を持たない彼女は、外気の温度で体温が変化してしまう。ほら今、グンと下がった。
 電話はぷつりと切れた。途切れた電波の先で、今度はどこに温度を合わせるのだろう。

「……あ、みゆき、おはよう」
 気付けば隣で眠っていた彼が、目をしばたたかせてこちらを見ていた。
「あ、おはよ。ごめんね、電話うるさかった?」
「いや。それより今日、お前仕事だろ」
「え……」
「おいおい、遅刻するなよ。頑張って、ずっとおれを養ってくれよなあ」
 彼はのんきに欠伸をした後、そのまま再び眠りについた。
 
 こんな日々には別れを告げたいと、きのう私も仕事を辞めた。自由で窮屈な巣の中で、動物たちが抱き合って眠る。やるべきことは、なにもない。なんて自由。縛られていたいだなんて、わがままだ。私もカナちゃんもわがままだ。
 私は何を産むだろう。何を作りたいのだろう。その正体さえ分からない。




 おはようございます。
 長編小説を書いている中での脇役の人の話を作ったんですけど、明け方から書いているうちに随分とキャラが変わってしまったので、本編の小説の中に入れない。どうにも行き場のない話です。
 長いくせに特にオチなくてすみません。ねむいですが、起きます(*^ω^*)
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なんか引き込まれてしまう。独特の魅力を持った文体ですね。
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